2025年10月中旬、堂島リバーフォーラムにて第7回 堂島こどもアワードの審査を行いました。 審査員は、井上 洋一 氏(奈良国立博物館長)千住 博 氏(画家/日本藝術院会員)により、 大賞(低学年・高学年各1名)、優秀賞(低学年・高学年各1名)、審査員特別賞(低学年2名・高学年2名)、堂島リバーフォーラム賞(全体で1名) 佳作(低学年・高学年各10名)、入選(低学年9名・高学年8名)が選出されました。
今回で三回目となる審査。今回も千住博先生とご一緒させていただいた。 さて、今年はどんな作品に出会えるのか。ワクワクしながら審査会場へ。 今回のテーマは、以下の三つ。
① あ・り・が・と・う!!! ② わたしだけのラッキー!!! ③ 未来の地球におねがい!!!
まずは全体的な感想から。なぜか、今回の作品は全体的におとなしめの作品が多かったように思う。これまでのような奇想天外、パワフルな作品が少なかったのは、やや残念。これも酷暑がもたらした影響だろうか。しかし、そうした中でも、一生懸命描いてくれた子どもたちの作品には思わず引き込まれてしまった。 テーマ①に関しては、家族や友人といった比較的身近な存在に対する感謝の気持ちを描いた作品が多かった。何気ない日常の中にこそ、感謝すべき対象があることを子どもたちはしっかりと認識している。 テーマ②に関しては、「ラッキー」という言葉の捉え方によって、さまざまな作品が誕生している。自分に対してだけのラッキーもあれば、家族にとって、社会にとって、地球全体にとって、そして自然にとってのラッキーもあった。この感性をしっかりと育んで行ってほしい。 テーマ③に関しては、地球温暖化、環境破壊、そして戦争・紛争といった現代社会が抱えるさまざまな問題を子どもたちなり捉え、それを作品に表現しているものが目を引いた。どうすれば自然と人間との共生・共存が叶うのか、どうすれば人間同士の争いが止み、平和な社会が構築できるのか、という大きな問いに、子どもたちは「おねがい」という気持ちを込めた絵で応えているようにも見えた。 ■低学年の部 こうした作品群の中にあって、大賞には千住先生とともに堀田回さんの《コンピューターに感謝》を選ばせていただいた。古生物学者を目指すという堀田さん。コンピューターを駆使し、何億万年前の恐竜の姿に思いを馳せる姿が実にうまく表現されている。堀田さんは、すでに古生物学者ですね。 次に、千住先生と優秀賞に選んだのが千倉蒼大さんの《アレンとココとみつけたぼくだけのひみつ》。愛犬たちに導かれた秘密の場所。そこは風光明媚な場所だった。空や川の表現、そして、愛くるしい愛犬の姿や密かにその場所をのぞき込む千倉さんの描写が見事。 そして、私が特別賞に選んだのは、國吉冬馬さんの《伝説のトリケラトプス》。遥か太古の世界に思いを馳せ、そこに生息していた恐竜を現代に蘇らせたい。映画「ジュラシック・パーク」を彷彿とさせるが、絶滅してしまった生き物への優しい気持ちがトリケラトプスの細かな描写に表れている。
■高学年の部 まず大賞には、千住先生と即、岩松珠佳さんの《特別だったピンク》を選出。仲間との流しそうめんの風景。まずは全体的な構図が見事。そして個性豊かな仲間たちの一番下に小さくピンクのそうめんをゲットした岩松さんを控え目に描いているのも心憎い。後に、このピンクのそうめん獲得の裏に仲間たちの友情が隠されていたことを知った岩松さん。「そこにはやさしさも流れていた」という彼女のコメントも素晴らしい。 次に、千住先生と優秀賞に選んだのが井上優登さんの《ぼくたちは外で遊びたい》。一目で地球温暖化がテーマとわかる。ギラギラとした太陽の下、ひび割れた大地を縫い繕う人物や枯れた植物。そして塗料が溶け出す滑り台には目玉焼きが。この着想力には脱帽。 そして、私が特別賞に選んだのは、村田理紘さんの《父と僕のふるさとのお滝さん》。豪快に流れ落ちる滝の姿を巧みに捉えている。千住先生の《ウォーター・フォール》に迫るような水しぶきや水の色使いも見事。コメントを読むと、どうやらこの滝はお父様の故郷、能登の滝。この滝の勢いは、震災で傷ついた人々を懸命に励ましているようにも見える。 今回は作品に「聴く」、「聴いてみたい」ものが多かった。子どもたちが抱く感情。その感情がどのような物語の中で生まれ、それをどのような気持ちで作品に表現したのか。無垢な感情、感性が生み出す子どもたちの絵画。そこには私たち大人たちには想像もつかない物語が潜んでいるように思う。その物語を心静かに聴いてみたい。
今回も奈良国立博物館の井上洋一館長とご一緒に応募作品を見せていただきました。考古学者と現代美術の画家とではずいぶん価値観が違うと思われるかもしれませんが、実は賞はあっという間に意見が一致して決まりました。優れた美術というのは、それがこどもたちの描いたものであろうが、太古の人の作り出したものであろうが、瞬時に心をダイレクトにつなぐものだと改めて感じました。その分、入選を選ぶのは、かなりの時間を費やしました。作品を落とすという事は、相当な覚悟がいるものです。
またこれは私の個人的印象ですが、自己と世界が一致した意識が子供の絵の魅力の一つだと思います。描かれた風景は自分の唯一の世界であり、自分の出来事であり、経験であり、心に残るトピックスであり、すべて自分の人生という事です。
低学年の大賞 堀田 回さんの作品はデジタルとアナログの交差する気配をとらえ、圧倒的でした。ほどほどに抑えて描かれた人物の顔はパソコン画面へと視線を誘導し、画面全体が一つの雰囲気となり、画面に漂うDNAシークエンスを思わせるストライプ模様は微かに動きながら生命の情報を解析し、その秘密を解き明かすかのようです。なかなかこれほどの作品は見たことがないと感じました。
優秀賞 千倉 蒼大さんの作品は、犬たちに導かれた驚きに満ちた表情の本人と、辿り着いたいくつかのシーンが描かれ、不思議な印象を醸し出します。画面を引き締めるのが遠方の夏富士で、これは北斎の描く富士のように彼岸と此岸を橋渡するかの如くの神秘的な気配を生み出していました。
千住 賞 坂 夢乃さんの作品は、空間、色彩を織りなす豊かな感性によって描かれています。私は平安時代の歌人、在原業平の歌を思い出しました。「世の中に、絶えて桜のなかりせば、春の心はのどけからまし」――世の中に桜がなければ、春はなんて退屈なものだろう、と謳う業平と同じ思いがここに溢れていると感じ、私はしばし春の気配を楽しみました。
高学年大賞 岩松 珠佳さんの作品は高い完成度の見事な傑作と思いました。そうめんを一本ずつ描いているのですが、ある場合は歯とはしで引っ張られて緊張感のある直線に、ある場合は流れる動きの中もつれ画面中央部へと移動し、ある場合は口の中に収まり胃の中へと消えてゆく――それを中心に個性豊かな人物の表情や違う顔の色などが描かれています。作品全体のリズム感と、難しい構図にもかかわらず、構成の安定感が見事でした。
優秀賞 井上 優登さんは昨年より一段と成熟した思考を得て、作品は深く哲学的です。未来、現在、過去にまたがるダイナミックなテーマ、太陽の照りつける灼熱がひしひしと伝わり、滑り台は目玉焼きができるほど熱くなり、またひびを縫う行為でしょうか、これが実に現代絵画的なシュールな魅力を醸し出します。
千住 賞 梅垣 友里さんの作品は、画面上部の人工的な力強い建造物と、下の人の手に負えないような自然の力学、うねり、エネルギーの対比がダイナミックで、実感に満ちた画面処理に惹きつけられました。潮の音が聞こえ、水飛沫が伝わります。
こどもたちの作品は、世相を写すばかりでなく、一人ひとりが人知れず色々なことに感動したり興味を持つ柔らかい無垢の感性の持ち主であることを伝え、この子供達の未来に少しでも貢献したい、応援したい、と強く感じ、審査に関われたことを、すばらしい才能に出会えたことを心から嬉しく思いました。
堀田 回(3年生) テーマ:あ・り・が・と・う!!!
タイトル:「コンピューターに感謝」
作品説明:「私は将来古生物学者になりたいのです。何億年前に、今の人間の数万倍生きていた恐竜などにおどろきます。さまざまな情報がCPで分かり、すこしづつ恐竜のことも分かってきました。これらの機器に感謝しています。」
千倉 蒼大(3年生) テーマ:わたしだけのラッキー!!!
タイトル:「アレンとココとみつけたぼくだけのひみつ」
作品説明:「かしこいアレンとあまえんぼうなココがぼくだけにひみつの場所をおしえてくれた。ここをみつけられたのは、きっとぼくだけのラッキーだよ!!!」
國吉 冬馬(2年生) テーマ:未来の地球におねがい!!!
タイトル:「伝説のトリケラトプス」
作品説明:「トリケラトプスがだいすきだから、また未来にトリケラトプスが復活してほしいです!!」
坂 夢乃(2年生) テーマ:あ・り・が・と・う!!!
タイトル:「自然にありがとう」
作品説明:「わたしがいちばん好きなきせつ、春。さくらがさいて、小川にさかながおよいでいる。こんなすてきなばしょが、あったらいいな。」
浦島 明莉愛/兼松 浩太郎/坂 志織/酒井 駿/塩田 悠喜/下中 奏音/髙橋 柊里/脱 景知/西園 清之介/柚木﨑 喜介
(五十音順)
天野 美月/市川 陽丸/尾崎 葵和/阪口 楓奈/西村 春澄/人見 紗季/松田 怜奈/水野 里香/Lee Seoyoon
岩松 珠佳(4年生) テーマ:わたしだけのラッキー!!!
タイトル:「特別だったピンク」
作品説明:「レアなピンクのめんゲット!普段お家では取り合いでなかなか食べられない。あのキャンプの時に運よく私だけ食べられたのは、実はみんながそうさせてくれていたと後から知った。やさしさも流れていた。」
井上 優登(5年生) テーマ:未来の地球におねがい!!!
タイトル:「ぼくたちは外で遊びたい」
作品説明:「昔の夏は今ほど暑くなかったらしい。どうすれば昔のようにもどれるか分からないけど、むだと思えるような小さなことでも、コツコツ行えば必ず改善できると信じています。」
村田 理紘(6年生) テーマ:未来の地球におねがい!!!
タイトル:「父と僕のふるさとのお滝さん」
作品説明:「僕の父が生まれた町にある不動滝。幼い頃から夏休みになるとサンショウウオを探しに滝へ出かけた。度重なる能登の災害で行けなかった時もあった。ずっときれいなお滝さんがいつもふるさとにあってほしい!」
梅垣 友里(6年生) テーマ:わたしだけのラッキー!!!
タイトル:「うずしおがみれたよ」
作品説明:「修学旅行に淡路島に行きました。海にうずがまいてる様子がみれてラッキーでした。」
玉置 太陽(6年生) テーマ:未来の地球におねがい!!!
タイトル:「神が宿る森」
作品説明:「滝には神が宿っているそうです。そして、シカは、神の使いとされているそうです。こんな神秘的な風景が、いつまでも見られますように。いつまでも美しい地球でありますように。」
大窪 雫/奥田 航誠/小笹 美幸/川﨑 颯祐/佐藤 直樹/鈴木 誠希千/田中 心梛/永野 なつめ/村瀬 庚明/渡邉 ひな乃
赤坂 朔空/石田 彩弥/加治木 ましろ/樫山 椛菜/塩貝 紗依/塩路 羽南/瀬田 雫々海/藤本 しふみ
開催日時:2025年11月5日(水) ~ 11月11日(火) 開館時間:12:00~17:00(入館は閉館30分前まで) 休館日:11月9日(日)表彰式の為、一般入場不可 場所:堂島リバーフォーラム 4Fギャラリー 入場料:無料 アクセス