2024年10月下旬、堂島リバーフォーラムにて第6回 堂島こどもアワードの審査を行いました。 審査員は、井上 洋一 氏(奈良国立博物館長)千住 博 氏(画家/日本藝術院会員)により、 大賞(低学年・高学年各1名)、優秀賞(低学年・高学年各1名)、審査員特別賞(低学年3名・高学年3名)、 佳作(低学年・高学年各10名)、入選(低学年9名・高学年11名)が選出されました。
昨年に引き続き、今年も千住先生とともに審査を行わせていただいた。今回のテーマは、以下の三つ。
① あったらいいな、こんなとこ ② ドキドキッとした思い出 ③ 自然だーいすき
昨年にもまして、力作ぞろい。あれこれと悩みながら、わが感性の赴くままに審査を進めさせてもらった。まずは全体的な感想から。
テーマ①に関しては、自分の身近な世界から発想を飛ばし描いたものや、全く違った発想で異次元の世界を描いたものなど、子どもたちの発想力、創造性には脱帽である。
テーマ②に関しては、何気ない日常の中でのハッとした出来事を題材に描いたものや、実体験を通して自分の心理状態をうまく描いた作品もあった。心の動きをも捉えようとする子どもたちの感受性には、こちらがハッとさせられた。
テーマ③に関しては、自然そのものを描いた作品もあれば、自然の尊さに思いをよせ、自然保護的な思想に基づいたような作品も見受けられた。また植物、昆虫、動物たちの細部にもこだわった子どもたちの眼差しも見過ごすことはできない。
こうした作品群の中にあって、低学年の部の大賞には千住先生とともに選ばせていただいたのが、橋本絃さんの《発表ドキドキ》。そこには「皆の前で国語の発表、うまくできるかどうかドキドキ。本をギューっと持ってしまって、あぁどうしよう。」というコメントが添えられていた。しかし、その作品からはその時のクラスの雰囲気がしっかりした構図の中で表現され、ドキドキはあったものの、みんなの前で堂々と素晴らしい発表ができたことを想像させる見事な作品と言えるだろう。
一方、高学年の部の大賞には、こちらも千住先生と意見がぴったり一致。文句なしで永井秀弥さんの《いつまでも元気でいてね》を選ばせていただいた。この作品には「大きな樹は森の奥深い所でずっと生きてきました。これからもずっと生きていて欲しくて描きました。会いに行きたいです。」とのコメントが添えられていた。永井さんは縄文杉を思わせる大樹にそっと触れる二人の人物に、自分の思いを重ね、太古の息吹と自然の偉大さを見事に感じ取り、この作品を描いたのであろう。構図、色彩表現も見事。是非、いつかこの大樹に会いに行って、新たな作品を描いてほしい。
そして、私が特別賞に選んだのは、以下の2作品。まず低学年の部では、尾崎葵和さんの《ひみつの森のほし空音がく会》を選出。それにはこんなコメントが添えられていた。「音楽が好きな人だけが行ける森では、動物たちとお話することができます。星空がきれいで、広場には光る花があって、そこで動物たちと音楽会をします」。そのコメント通り、地上では花の楽園の中で動物たちとともに音楽が演奏され、それは満天の星が輝く、美しき天空の世界に響き渡る。その情景は、私たちを優しき夜のメルヘンの世界に誘ってくれる。
また、高学年の部では、梅垣友里さんの《水切りしたよ!》を選出。「家族で川に遊びにいったとき皆で水切りをして、だれが一番長く石を飛ばせるか競いました。水の波紋や地面の石が水辺にすけているところがきれいなのをがんばってかきました。」と言うコメント通り、川の流れ、水の色の変化、そして、川面をぴょんぴょんと跳ねていく石の動きとそれに合わせて生まれる川面の波紋の様子がリズミカルに見事に捉えられている。 私は前回同様、子どもたちの豊かな感受性に圧倒された。子どもたちの作品には日常、社会、自然、そして、人間を見つめる眼差しがある。また、子どもたちの作品には夢がある。この子どもたちの作品から私たち大人が学ぶべきことは多い。
今回も審査を井上洋一奈良国立博物館長と担当した。実は上位の受賞作品はほぼ即決と言っていいほどの意見の一致をもって決まっていった。古代美術の権威と実作者の私ではずいぶん価値観が違うと思われがちだ。しかしその両極の立ち位置と言える私達が同じ作品を目にして同じように共感していたことで、美術の真価を改めて感じることとなった。
では受賞作品に共通していた特徴は何か。まずは、「実感」だ。頭で想像して、こうだったらいい、ああだったらいいと夢を子供らしく描くことも大切で、児童画はまるでそのようなものと思われがちだが、実は、子供達の描く作品の勝負はそこではなかったということだ。子供達の心に刻まれたリアルな体験は、「こんなことを描くのか」と思える意外性に繋がってゆく。この人生で出会った絵に描きたくなるほどの印象の強さがあるからこそ、脳裏に焼き付いた観察の記憶がある。そして構図の独創性が生まれる。子供達は画用紙を前に、それを描く楽しみに「夢中」になった。それが作品に共通した「類例のなさ」、「高い集中力」を生むのだと思う。
低学年の部で大賞を受賞した橋本絃さんの作品を目にして、まさかこんな構図でこんな日常を面白く描く子がいたのかと感動した。類例のない構図で、言いたいこと出品作品を見てが明確で、強くストレートだ。優秀賞の木谷郁海さんの作品は布団の内側に異次元の宇宙が広がっている。この幻想的な世界を語るスクラッチの技法を、日常の現実と組み合わせる発想は見事だ。また特別賞の千住賞の長島央晟さんの作品のリアルさには圧倒された。海に潜って魚を見た経験が、ここまで鮮明に描けるものなのだなと敬服した。
高学年の部で大賞を受賞した永井秀弥さんの作品は、深い森の中で大木に触れた経験が圧倒的なリアリティで甦り、重厚な画面によりその感動の大きさを伝える。森の湿度、温度、樹木の気配が手に取るように迫り、私たちも同行した気になった。優秀賞の玉置太陽さんの作品は、異なる色相のバランスや世界観が秀逸で描写力が際立ち、圧巻としか言いようがない。それぞれのモチーフに向かう真摯な姿勢が目に浮かぶ。千住賞の井上優登さんの作品は、複雑で多様なエピソードをまとめ上げ、構成も見事で色も美しく、全てを自分の形として昇華し、見飽きることがない。
総じて、作品は個性的であった。しかし個性とは髪を染めるとか珍しい服を着るといったような「後付け」ではなく、毎日の体験を通して構築されてゆくものが真の個性と語りかけている。この子供達は日常を、このように豊かな感受性で実感を持って受け止め、心に刻み、日々を夢中で生きている。そのことを私たち大人は強く心に刻んで、この未来の宝物たちを傷つけることのない社会を作り、一人一人に大切に接したいと感じた。
橋本 絃(3年生) テーマ:ドキドキッとした思い出
タイトル:「発表ドキドキ」
作品説明:「皆の前で国語の発表、うまくできるかどうかドキドキ。本をギューっと持ってしまって、あぁどうしよう。」
木谷 郁海(1年生) テーマ:あったらいいな、こんなとこ
タイトル:「布団の中で繋がる宇宙」
作品説明:「ぼくはねるときにふとんにもぐってうちゅうごっこするので、ふとんでつながるうちゅうがあるといいな。」
尾崎 葵和(1年生) テーマ:あったらいいな、こんなとこ
タイトル:「ひみつの森のほし空音がく会」
作品説明:「音楽が好きな人だけが行ける森では、動物たちとお話することができます。星空がきれいで、広場には光る花があって、そこで動物たちと音楽会をします。」
長島 央晟(3年生) テーマ:自然だーいすき
タイトル:「いる!いる!」
作品説明:「川遊びで魚を発見。見失わないように観察しました。」
千倉 蒼大(2年生) テーマ:あったらいいな、こんなとこ
タイトル:「ぼくのみたいジャングルワールド」
作品説明:「ここは、アフリカのとあるちにあるジャングルです。子ざるは、おかあさんざるにやさしくだっこしてもらっています。おとうさんざるは、きけんな生ぶつから家ぞくをまもっています。」
石黒 愛菜/楠田 大河/島﨑 杏奈/砂田 美月/田口 陽悠/玉置 颯姫/塚元 美結/藤原 真紘/松田 怜奈/山下 渚
(五十音順)
大﨑 睦斗/河本 悠世/北川 天誠/倉地 杏育/坂 志織/里村 沙羅/田中 優羽/那須 梨愛/松原 栞里
永井 秀弥(6年生) テーマ:自然だーいすき
タイトル:「いつまでも元気でいてね」
作品説明:「大きな樹は森の奥深い所でずっと生きてきました。これからもずっと 生きていて欲しくて書きました。会いに行きたいです。」
玉置 太陽(5年生) テーマ:自然だーいすき
タイトル:「豊かな世界 いつまでも」
作品説明:「人間が普段は気づかないところにも、自然と動物たちの豊かな世界があります。その世界がいつまでも残り続けるように、思いをこめて描きました。」
梅垣 友里(5年生) テーマ:自然だーいすき
タイトル:「水切りしたよ!」
作品説明:「家族で川に遊びにいったとき皆で水切りをして、だれが一番長く石を飛ばせるか競いました。水の波紋や地面の石が水辺にすけているところがきれいなのをがんばってかきました。」
井上 優登(4年生) テーマ:あったらいいな、こんなとこ
タイトル:「夢の大運動会」
作品説明:「ぼくは遊びも料理もねる事も大好きです。いろんな事を同時に対戦できるしゅもくがあったら出場して金メダルを取りたいなあ。」
中林 千奈都(6年生) テーマ:自然だーいすき
タイトル:「目覚め」
作品説明:「夜が明け朝日が射し込む森。朝露に光が当たりキラキラと輝く。森が目覚め1日がはじまる。」
金 志優/佐藤 直樹/脱 景博/田中 葵子/時永 夏輝/中村 佑羽/中山 結葵/山下 結衣/山田 愛/山中 美心
大窪 雫/岡入 環/竹内 美来/圓谷 実久/中田 樹希/中西 一莉/名倉 彩葉/平山 想祐/船井 あさひ/山本 海愛/渡邉 ひな乃